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大阪高等裁判所 昭和50年(ウ)925号 決定 1976年5月12日

箕面市桜丘二丁目三番二号

申立人

加藤庄一

右申立人から控訴人同申立人、被控訴人国間の当庁昭和四九年(ネ)第七〇三号差押債権取立請求控訴事件及び控訴人国、被控訴人同申立人間の同庁同年(ネ)第八五九号差押債権取立請求控訴事件について文書提出の申立てがあつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件申立を却下する。

理由

一、申立人は、「被控訴人国に対し訴外丸善鋼材株式会社に対する滞納処分票及び実地調査経過報告書の提出を命ずる」旨の裁判を求め、その申立の理由は別紙(一)(二)記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

記録によると、本件申立てにかかる滞納処分票及び実地調査経過報告書を国(大阪国税局)が所持していること及び右各文書は、課税庁が徴税上使用するために作成された内部文書であつて、訴外丸善鋼材株式会社の滞納税金の処理状況並びに同社の経営・取引関係等を調査した経過の記録であることが認められる。

(一)  申立人は右文書は民訴法三一二条第二号に該当すると主張するけれども、同号所定の文書とは申立人が所持者に対し、その引渡又は閲覧を求めうる実体上の請求権を有するものをいうが、申立人において国に対し右文書についてそのような権利を有すべき根拠はないから、右主張は理由がない。

(二)  申立人は右文書は同法条第三号に該当すると主張するけれども、右文書が同号前段にいう挙証者の利益の為に作成せられた文書に該らないことは明らかである。また、同号後段にいう挙証者と所持者との間の法律関係につき作成せられた文書中には、所持者がもつぱら自已使用のために作成した内部文書のごときものは含まれないと解するのが相当であり、右文書は前記のとおり課税庁が徴税上使用するために作成した内部文書であつて、右文書中には課税庁の調査に対する協力者のプライバシー並びに税務行政上の秘密等にわたる事項の記載があることが窺われるので、かかる文書については租税徴収の目的から所持者にその内容を公表しない自由が保障される必要があるから、前記法律関係につき作成せられたものということはできない。

よつて、本件申立は理由がないからこれを却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斉藤平伍 裁判官 仲西二郎 裁判官 惣脇春雄)

別紙(一)

一、文書の表示

(1) 訴外丸善鋼材株式会社に対する滞納処分票 二部

(2) 訴外丸善鋼材株式会社に対する実地調査経過報告書 二部

二、文書の趣旨

(1) 訴外会社の滞納税額を徴収するため

(2) 訴外会社の課税処分に際して作成された調査の経緯を詳細に記入したもの

三、文書の所持者

(1)及び(2)共に一審原告である国(大阪市東区大手前之町国税局)

四、証すべき事実

(1) 一審被告主張事実のうち詐害行為の認知日附を確認するために必要である。

(2) この事件の起因となつた訴外会社の課税処分が如何にして行われたかを把握するために必要である。

五、文書提出義務の原因

一審原告は本事件の起因となつた訴外丸善鋼材株式会社に対して(1)については滞納税額を徴収するため(2)については法人税更正決定をするために本文を作成したものであるから民事訴訟法第三一二条第一項第二号により右文書提出の義務がある。

以上

別紙(二)

一、民事訴訟法第三一二条第二号、第三号の規定を適用して一審被告には明確に右条の適用する権利請求権があることは明白でありますから、たとえ「法人税実地調査経過報告書」及び「滞納処分票」が内部文書であるとしても、要求があれば提出に応ずるのが裁判公平の原則よりみて当然と言うべきであります。

二、訴外丸善鋼材株式会社(以下丸善鋼材と言う)の更正決定処分によつて生じた一審原告の債権が適正なる債権か、または誤つた空の債権であるかについて争つている当訟訴でありますから、主因である丸善鋼材の更正決定処分の理由を明白にしてこそ、原告及び被告にも心から納得することが出来るに拘らず、唯単に内部文書であるからと言つて「法人税実地調査経過報告書」及び「滞納処分票」の文書書類の提出を拒むと言うことは訴外丸善鋼材の更正決定が理由なくして決定され、納税者に知らされずにデツチ上げて作られた債権と言われても一審原告は一言の言訳もないと思います。

地球上に存する各国の租税法をみても、国が決定したものについては、納税者にその決定、理由、経過を知らせる義務が課せられていますが、大阪国税局(一審原告)にては、理由説明、経過報告も納税者に知らしめずに決定が許されているのは目茶苦茶である。

現に、一審被告が前述の通り実質上の訴外丸善鋼材の代表者であると一審判決にて認定している限ぎり、この法人の更正決定の理由経過を問い尋ねる権利を有すると同時に、更正決定に至つた主因経過、すなわち、「法人説実地調査経過報告書」及び「滞納処分票」の提出を求めることは正当、適法なる行為であると断言することが出来ます。

三、「法人税実地調査経過報告書」及び「滞納処分票」はいずれも公務員の職務上知り得た秘密が記載されていると一審原告が述べていますが、一審被告の要求するは、ただ訴外丸善鋼材の「法人税実地調査経過報告書」及び「滞約処分票」の関係書類のみであります。

訴外丸善鋼材の実質上の代表者が自已の法人税調査について、一審原告が如何に調査し滞納処分したかを知る権利を有することは現在の租税法律主義のなかにおいても一般に許可されている現況を無視して、これを拒む場合は、民事訴訟法第二八四条の類推適用するが当然であると直言いたします。

四、「法人税実地調査経過報告書」及び「滞納処分票」を法廷に提出することが一審原告には不利であることが明白なるため民事訴訟法第二七二条、第二七三条、第二八一条第一項第一号の類推適用を無理に援用していることは現実無視であると同時に一審原告が有する債権が空論のものであることを恐れての提出拒否であると断じて間違い無いことと一審被告は断定いたします。

更に民事訴訟法第二七二条、第二七三条、第二八一条第一項第一号は「証人の証言」について述べているが、証拠文書の提出まではこの条項には波及しないことを一審原告は知らないのではないかと考えます。元来本件は民事裁判であることを一審原告は知るべきです。刑事裁判であれば一審原告の言うことも一理あるかも知れません。

以上

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